2016年のノーベル賞発表まで一週間を切りました。10月3日の生理学・医学賞を皮切りに、4日に物理学賞、5日は化学賞と自然科学3賞を発表。平和賞は7日、経済学賞は10日です。日本科学未来館では毎年、その年の自然科学系3賞を受賞するにふさわしいと思う研究テーマ・研究者を同館の科学コミュニケーターが各賞ごとに3つ紹介しています。
2016年「生理学・医学賞」は誰の手に?
今回は生理学・医学賞について、3つの研究を紹介します。生理学・医学賞は「病気の解明や治療法の開発」、「生命科学の研究に欠かせない技術の開発」、「生命の基礎メカニズムの解明」といった研究が毎年の受賞テーマになっています。生命に関するテーマが毎年受賞しています。今年はいったいどんな研究に与えられるのでしょうか。
■小胞体ストレス応答機構を解明
森和俊(もり・かずとし)博士/ピーター・ウォルター(Peter Walter)博士
私たちの身体を構成するもので、水分の次に多いのはタンパク質です。筋肉などのパーツはもちろん、消化などの化学反応を助ける酵素まで、さまざまな形のタンパク質が身体の中で働いています。タンパク質の多くは、細胞の中の小胞体と呼ばれる小部屋の中で作られます。
私たちの細胞の小胞体は、不良品タンパク質の蓄積を発見すると、新しいタンパク質の生産をストップします。そして、不良品の修理を強化し、それでもどうにもならない場合は、最終的にはスクラップして不良品を一掃します。こうして工場で生産されるタンパク質の品質を保っているのです。森博士とWalter博士は、このタンパク質製造工場の品質管理のしくみを解明しました。
さらに最近では、この品質管理がうまくいかなくなると、がんや糖尿病などの様々な病気を引き起こすことがわかってきました。今後、小胞体の中で起きている現象を調べていくことで、これらの病気の新しい治療法が見えてくる可能性があります。
■アレルギー反応機構を解明
石坂公成(いしざか・きみしげ)博士、坂口志文(さかぐち・しもん)博士
アレルギーは免疫の過剰反応です。免疫は自分でないもの(=異物)を攻撃する身体の仕組みです。病原体やがんなど攻撃しなくてはならないものだけを攻撃してくれれば良いのですが、私たちの身体は完璧ではありません。自分自身を誤って攻撃してしまったり、花粉や食べ物などの攻撃する必要がないものに過剰に攻撃してしまうことがあります。まさにこの後者の、大した脅威でもないものへの過剰な攻撃が「アレルギー」です。
まさに現代病の代表格とも言えるアレルギー。治らないものだと半ば諦めかけている方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、アレルギーの仕組みを明らかにした石坂博士と免疫機構を制御する細胞を発見した坂口博士の功績によって、アレルギーを治せる時代はすぐそこまで来ているのです。
■遺伝子治療の概念の提唱とその臨床応用
セオドア・フリードマン(Theodore Friedmann)博士、アラン・フィッシャー(Alain Fisher)博士
遺伝子治療は、遺伝子の変異が原因で起こる病気に対する有望な治療法の1つです。私たちの体は、遺伝子の情報をもとに体の中で働くタンパク質を作りますが、この遺伝子情報が変わってしまうと、あるべきタンパク質が作られないなどの異常事態が起こり、病気につながります。遺伝子治療では、ウイルスなどに由来する「ベクター」を使って外から正常に機能できる遺伝子を送り込むことで、変異が起こっている遺伝子の働きを補います。
現在、多くの病気で遺伝子治療による根治の可能性が広がっています。欧米では数年前に遺伝子治療用のベクターが医薬品として認可されました。遺伝子治療はもはや「研究」の域を超え、普及と展開の時期に入りつつあるのです。
10月3日午後6時半から発表
ノーベル生理学・医学賞は10月3日午後6時半(日本時間)から発表されます。今回紹介した3つの研究については、日本科学未来館の科学コミュニケーターブログでより詳しく解説しています。予想が当たっても当たらなくても、これを機会にご紹介した研究・研究者にも興味を持っていただけたらと思います。
引用元 https://thepage.jp/detail/20160930-00000010-wordleaf?pattern=1&utm_expid=90592221-74.LdrGpjcWS4Czgnu3l9N7Eg.1&utm_referrer=https%3A%2F%2Fthepage.jp%2Fdetail%2F20161001-00000002-wordleaf%3Fpattern%3D1%26page%3D1
2016年「物理学賞」は誰の手に?
今回、取り上げる物理学賞では、昨年はニュートリノの研究で、梶田隆章氏がカナダのアーサー・マクドナルド博士と共同受賞、一昨年は青色発光ダイオードの開発で、赤崎勇氏、天野浩氏、中村修二氏の3人が受賞するなど、日本人の受賞が続いています。今年はどうなるでしょうか?
“順番通り”なら今年は「物性分野」からか
物理学は、その名前が示すとおり「物(もの)の理(ことわり)」を探っていく学問です。もう少しなじみのある言葉で使えば、「物質の性質や自然界の現象にかかわる普遍的な法則」を見出し、解明していく学問です。その分野は幅広いのですが、ノーベル物理学賞の対象範囲を説明するときには、以下の3つがあると説明しています。(1)物性:物質の示す物理的性質、(2)宇宙:天文学や宇宙物理学、(3)素粒子:物質を極限まで細分化した、極小の世界――の3つです。
■「アト秒」物理学の発展に対する貢献
ポール・コーカム(Paul B. Corkum)博士/フェレンツ・クラウス(Ferenc Krausz)博士
《超高速現象の観測を可能にする光科学の最先端》
「アト秒物理学」とは、「アト秒レベルで起こる物理現象に取り組む学問」のことです。アト秒で起こる物理現象の代表的な例は、化学反応での電子の動き。実際に電子がどう動いているかを見るのが、アト秒物理学とも言えるのです。
ではその「アト秒」とは? ―なんと、0.000000000000000001秒(10のマイナス18乗)という、とてつもなく短い時間です。
アト秒レーザーを使うと、原子や分子の中での電子の動きや、化学反応が起こっているときの原子の動きなどを観察することができます。
今まで理論的にしかわかっていなかった現象を「実際に見る」ことができれば、それらの研究が大きく発展するのは、間違いありません。
■「量子テレポーテーション」に関する先駆的研究
チャールズ・H・ベネット(Charles H. Bennett)博士/ジル・ブラッサール(Gilles Brassard)博士/ウィリアム・ウーターズ(William K. Wootters)博士/古澤明博士
《次世代コンピュータの基礎になる情報の“瞬間移動”》
SF映画や小説などで、人や宇宙船を「テレポーテーション(瞬間移動)」させるシーンをはよく見かけます。しかし、ここでとりあげる「量子テレポーテーション」は、人や物の移動ではなく、「量子情報」を移動させる技術です。
量子情報とは何かを知るために、まずは電子や光子といった非常に小さいスケールでおこる現象についての学問「量子力学」について、ごく簡単に説明しましょう。量子の世界では、私たちがふだん過ごしている世界では常識的にあり得ない現象が起きます。
量子テレポーテーションという現象が起こりうることを提唱したのが、ベネット博士、ブラッサール博士、ウーターズ博士です。そして世界で初めて量子テレポーテーションを実際に成功させたのが、古澤博士です。
量子テレポーテーションを成功させたということは、いままで誰も入ったことのなかった実験的な量子の世界のドアを開けることができたということ。この世界の現象を応用することで、例えば、処理速度が現在のものとは比べ物にならないほど速い「量子コンピューター」の開発につながるかもしれません。
■「重力波」の発見に関する貢献
キップ・ソーン(Kip S. Thone)博士/ロナルド・ドリーバー(Ronald W. Drever)博士/レイナー・ワイス(Rainer Weiss)博士
《宇宙誕生の秘密にも迫る新しい天文学の幕開け》
2016年2月に「世界で初めて重力波を直接観測した!」というニュースが世界中で大きく取り上げられたことを覚えている方もいるかと思います。日本の新聞各社が号外を出し、未来館でも速報ブログを出しました。
この重力波の正体は、連星などの動きに伴って生じる「時空のゆがみが伝わる波」です。(※連星とは、2つ以上の天体が互いに引力を及ぼし合って、共通の重心の回りを軌道運動しているもの)
これまで人類は光(可視光)や赤外線、紫外線、X線など、いずれも電磁波と呼ばれる波で宇宙を見てきました。けれども、重力波はこれとはまったく別の波です。光(電磁波)をとらえる視覚と、音の波をとらえる聴覚がまったく別の知覚であるように、電磁波を使う天文学と重力波を使う天文学では、まったく異なる方法で宇宙を探ることになります。重力波はブラックホールだけではなく、超新星爆発やパルサーからも生じると言われています。これらを重力波で観測することで、いままでの方法ではわからなかったことがたくさんわかるようになると期待されています。
※重力波観測成功は、アインシュタインの100年の宿題を解いた偉業とも言われています。詳しくはこちらのブログをご覧ください。
10月4日夕方に受賞者発表
物理学賞は10月4日(火)午後6時45分(日本時間)から発表されます。今回予想した3つの研究が的中すればそれはもちろん嬉しいことですが、もし的中しなかったとしても、これを機会にご紹介した研究・研究者に興味を持ってもらえたのならば、それが一番嬉しいことです。
引用元 https://thepage.jp/detail/20161001-00000002-wordleaf?pattern=1&utm_expid=90592221-74.LdrGpjcWS4Czgnu3l9N7Eg.1&page=1&utm_referrer=https%3A%2F%2Fthepage.jp%2Fdetail%2F20161001-00000002-wordleaf%3Fpattern%3D1%26page%3D4
2016年「化学賞」は誰の手に?
自然科学3賞の発表は毎年、化学賞が最後になります。生理学・医学賞と物理学賞の余韻の中で化学賞を迎えるわけです。守備範囲の広さから、受賞の予想をするのは非常に難しいのですが、あえて化学賞らしい化学の研究から、このお三方が受賞すると予想したいと思います。
■自己組織化分子システムの創出と応用
藤田誠(ふじた まこと)博士
《分子が分子をつくる》
藤田博士は、「自己組織化分子」という研究の開拓者として化学界をリードしています。特に2013年に発表された「結晶スポンジ法」に関する研究は圧巻でした。
■本多-藤嶋効果(酸化チタンの光触媒能)の発見
藤嶋昭(ふじしま・あきら)博士
《一条の光できれいな世界を》
藤嶋博士は酸化チタンに光触媒反応が起きることを発見しました。酸化チタンを物質表面にコーティングするだけで殺菌・消臭・防汚効果が得られます。そのため、手術室の壁や医療機器、掃除の難しいビルの外壁などに使われています。
酸化チタンは世界中で利用されています。全人類の幸福のための科学研究こそ、ノーベル賞にふさわしいのではないでしょうか。
■ドラッグデリバリーシステムへの貢献と組織工学の提唱
ロバート・ランガー(Robert S. Langer)博士
《すべては人々の健康のために》
ランガー博士が開発したのは、薬や医療に使う細胞などを格段に使いやすくしたり、実現可能なものにしたりする手法です。薬や細胞に「化学の工夫」を添えることで、それを実現しました。
【ドラッグデリバリーシステムへの貢献】
病気になったときに飲む薬。実は身体の中では薬を「悪いやつ」と勘違いして患部まで届かせないような「関門」がたくさんあります。こうした「関門」を突破する方法として「ドラッグデリバリーシステム (以下DDS)」という技術があります。
もう一つの功績は、細胞と人工物を上手く組み合わせて、「生きた組織・臓器」をつくるという「組織工学」を開発したことです。病気やケガなどで臓器や組織の移植を必要とする患者さんは多いのですが、つねに提供者不足の状態です。そこで移植用の臓器をつくる研究が世界中でずっと前から進められていました。歴史的に古くから研究されてきたのは、プラスチックやファイバー、金属などでつくる人工臓器です。心臓や関節などで一定の成果をあげています。数々の新しい技術を生み出してきたランガー博士。今でもDDSと組織工学をさらに発展させ、人々が健康に暮らせるよう邁進しています。ぜひ博士が生み出した新しいDDSと組織工学に注目してみてください。
10月5日夕に受賞者を発表
今年のノーベル化学賞は日本時間の10月5日(水)午後6時45分頃から発表されます。予想が当たっても当たらなくても、これを機会にご紹介した研究や研究者にも興味を持っていただけたらと思います。
引用元 https://thepage.jp/detail/20161002-00000005-wordleaf?pattern=1&utm_expid=90592221-74.LdrGpjcWS4Czgnu3l9N7Eg.1&page=1&utm_referrer=https%3A%2F%2Fthepage.jp%2Fdetail%2F20161002-00000005-wordleaf%3Fpattern%3D1%26page%3D5
記事をまとめていて驚いた。今まで、自分にとってノーベル賞は遠い世界の話でしかなかったが、今回はずいぶんと身近になった。日本人にはお馴染みの花粉症やアトピー、ぜんそくといったアレルギー。その仕組みを明らかにしたり、免疫機構を制御する細胞を発見したのは日本人の研究者だったと知った。また、東京ビッグサイトの台形を逆さまにしたような形を思い浮かべてもらいたい。あの反り返った壁面はどうやって掃除をするのか。答えは「しなくてもいい」それは、光触媒の技術により雨で流され、汚れはつかないからだ。この話は知っていたが、まさか息子の大学の学長先生の功績だったとは。数日後の発表の日を楽しみにしたい。
≪キュレーター:SILVIA≫